到着して早くも4日目。
土鍋の旅がはじまる前にやるべきことがたくさんあるので、ミラノを拠点にしてよかった。
ミラノの街はこの時期まったく不思議な状態で、ドゥオーモなど観光名所は人でいっぱいだが、10分、15分も歩けば、ああ夏休みはじまってるなぁと感じる静かな夏の住宅地に入る。店も「じゃあね!夏季休暇をいただきます!」的なことが扉に書いてあったりなかったり。人が去ったその期間を狙って「秋オープン!」と告知し改装や移転する残念な閉まり方も多い。さて、そんなわけで、この時期の週末はとても静かだ。すでに長い休みに入った家族もいる。
そんな日曜日。師匠の友だちが5人来ることになった。わたしが帰ってきたので会いに来てくれるのだ。うれしいなぁ。暑いので料理をする気にも、熱い料理を食べる気にもならない。火を使わない料理でいこう。「おおげさな料理はしないよ、いいね」と、人をお招きするときに師匠が口癖のように言うセリフ。これは夏だけでなく冬であっても。元弟子できたえられたのは工房仕事だけでない。食事会や展覧会のパーティが多い国だからこそ、ある意味きたえられた手順は今も忘れていないわけで。
さて、加熱しない料理。この国であれば、喜ぶべきハムやチーズが美味しくて手頃なので、それを並べれば充分だ。日本食だって美味しい明太子と大根おろしがあれば、それを出せば嬉しいおつまみになるし、何よりお刺身を並べれば、いやいやお豆腐を切って薬味を加えたものなら最高な夏の一品になる。多くの店が閉まっている日曜日、材料がないのだからさて。
毎度日本から当座つかいそうな材料を持参する。日本食が恋しくなるということはないけれど、食に関する土鍋の仕事をしていると、どうしても気の利いた日本食をつくる機会が増える。もちろんミラノなら今やたくさんのアジアン食材屋さんがあるけれど、このように急な来客や日曜日ということに備えなければならない。
そこで今回は「春雨サラダ」。
タマゴを薄く焼いて、おみやげにあげた木屋の型ぬきで飾りにする。師匠の器に入れれば、いつもの「なんちゃってごはん」が異国の光にて豪華になるのね。