過日、山の手銀座とよばれた下町に、母と青春を誘ってぞうりを新調しに出かけました。卒入学の祝いの場もこれが最後かな。あともう一回卒業の場があるかないかは、今はまったく考えていません。もうここからは青春の道ですから。
仕事でキチキチの毎日。わたしは元気よ!と言いながらも父を亡くしてしょぼんとしている母になかなか会いに行けず。おいしいランチでも一緒に食べられればくらいの気持ちで、特に深い意図はなかったけれど、このショッピングが小さな思い出の一品になればいいなあ。
履物専門店に入ると、奥から背筋ぴしゃんで粋な旦那が挨拶に出てくる。ほら「いらっしゃいまし」と言ったような気がする。江戸っ子の祖父母が話していたような、そんな耳心地のよい言葉。
本体(天と巻)、鼻緒、前坪の色の組み合わせに悩むこと数十分。母の着物をいつも着るのですが、それらはすべて伯母が仕立てたもの。あれやこれや複数の着物をふたりで思い出しながら、母は全体像である着物の色と「鼻緒」「巻」の組み合わせについて、青春は横顔である「巻き」の厚さ(足の負担軽減)について語り、わたしはポイントになる「前坪」の色に夢中になる。
本革エナメルの輝きは、女の子なら憧れやなつかしさでいっぱいな素材でありましょう。うれしくて箱から取り出して時々眺めていると、新しいピカピカのぞうりには新しい未来が写りこんでいるように見えました。何でも知っている陶サルは言いました“お祝いのぞうりになりますように”と。