僭越ながらひとり細々とつづけているCocciorino「旅する土鍋プロジェクト」と、ロベルト氏の「マルケをかばんに詰めてプロジェクト」の活動が重なり、学びにになり、アイディアとなり、すべての栄養になり、とてもうれしい。氏は、葡萄酒から古代小麦粉などマルケの食材を可能なかぎりカバンにつめて「地中海式食事法」を紹介するために腕によりをかけてマルケ料理をつくってくださった。日本と重なる部分はたくさんあり、氏は「農家のおばあちゃまの味」からの伝承料理の語り部となったり、生産者を紹介して支えたり、現代の食事情においてもやさしく警鐘を鳴らす。古代小麦を使用することで過剰なグルテンを軽減させアレルギーを防ぐ啓蒙をうながしたり。「パスタとパンの国でそれらが食べられなくなってしまったら残念ですから」と、あくまでマジメなのだけれど食いしん坊なロベルト氏のおちゃめさが好い!
当日のメニューは ⇒こちら!
ロベルト氏はマルケの食事を紹介するときに“dieta
mediterranea”(地中海式ダイエット)と直訳される言葉を使いますが、このダイエットは現代の「痩身」という意ではなく「生活様式」を意味するギリシア語から「日常の食べ物」と転じた単語。つまりは、氏は、レシピを教えるだけでなく、その背景や食材という伝統を一緒に伝え、人と動植物の関係、さらには人と人とのコミュニティをつくっているのです。
特にマルケの農家のおばあちゃまたちがつくってきた伝統料理「ベルガーレの料理」(農家の女主たちの料理)を伝承すべく紹介しており、日本の地方で受け継がれる「おばあちゃんの知恵料理」といっしょだなと思いました。山野草を摘み、食べるだけでなく治療にも使い、まさしく生活様式を口伝えしてきたのです。日本も、イタリア同様に、長きにわたる農耕と食文化の歴史があります。意識の高い日本の生産者は日々の努力を示しており、わたしたちは自分たちが可能な範囲でそれを知り、応援し、意識してゆくことが必要です。
わたし自身、両親は東京のまんなか出身で家族で休暇に帰る田舎もありませんでした。そして、家族は東京で仕事を持ち学び。このように日本の動力である東京に生きる必要がある者たちも大勢います。東京で生きていくためには完璧なオーガニックライフやスローライフを持ってくることは不可能なので「妥協」という術もひとつの賢さです。しかしながら、その一方でコミュニケーション力を強みに持つ都市です。自然は少ないけれど、市場は豊かです。時に本物に触れ、知識を高め、普段は不可能でもイメージして暮らしてゆく。東京人が未来に進むうえで大切なことだと思っています。そして、減って消えてしまう大切な伝承を、強みであるコミュニケーション力と情報力で温存し、伝えていかなければなりません。
地中海の食事(モレニャーノの食のお祭り)
※マルケ州フェルモ県モレニャーノ
わたしはそんな理想から「旅する土鍋」プロジェクトを2013年から毎年イタリアで続けています。最初は道もなく、友人たちが手を引いて歩いてくれました。今もそうです。
このプロジェクトは、即効性のある答えや結果を求めているわけでないし、誰かが突出してブレイクすることも望まない。なぜならば、Cocciorino(地球のかけら)は、かけらをいただく分だけ、そこを倍にして埋めたいのです。地球という大きな歴史と広い心を遺すために、かけらという小さな虫けらとして手伝っているだけなのです。
「マルケをかばんに詰めて」のロベルト氏は地元の生産者と密につながり、精神科医であった彼の前職と、薬草や野草の研究を活かした本物の活動です。これからも、このように本物をたくさん「旅する土鍋」に入れて、可能な限りみなさまに紹介したり、私自身や、未来を担う子どもたちのイメージに残せればと思っています。
ロベルトさんのB&B「La
Scentella(ラ・シェンテッラ)」
C.da Sant'Antonio - Petritoli (FM) Le Marche Italy (マルケ州 フェルモ県 ペトリートリ村)
Scuola Olivina 森山陽子さん(オリーブソムリエ/イベントオーガナイザー)
ありがとうございまいした。