これほど毎年くりかえすひとり旅。
思えばひとり旅のはじまりが2つある。
「機運」とは時のめぐりあわせ:物事をなす時機。
「気運」とは時のなりゆき:物事が進もうとする傾向。
大学で陶磁器を学んでもまだガラス作家になることがあきらめられず、あの日、無情な気分で新幹線に乗って弟子になろうと広島のガラス作家のうちに向かいましたが、眼を大けがしてまた東京駅に。そのあとどのくらい経ってからだろう。日付が変わるすこし前の時間に、東京発の寝台列車ブルートレインに乗って、有田、唐津、伊万里の窯めぐりの旅をしたのです。
今でこそ客観的であるから、前者は「気運」、後者は「機運」であったと2つの気持ち的な違いが明解。失礼なことに、前者の広島行きは、見送ってくれた人、迎えにきてくれた人がいたはずなのにうるおぼえ。流れにのって行きつこうと向かうときが前者の「気運」で、おそらく急流のなかで自分しか見えなかったのでしょう。
一方、ブルートレインでの九州への旅は「機運」。東京駅から出発するシーンや見送ってくれた人の顔、列車のなかの会話、陶芸の地で出会った人、唐津の海の風、古代の陶片や偉大なる作品のことなども30年くらいたった今でも覚えていて少し感傷的になったりします。「めぐりあわせ」という言葉をおなぐさめ的に使いがちですが、本当のめぐりあわせは、自らが少し熟してから気がつくようです。
恒例の「旅する土鍋」は、実は何年も寝かせて2013年から動きはじめたプロジェクト。熟成しておいしくなった生ハムのごとく、このプロジェクトは「機運」であり、美味しさのめぐりあわせなのでしょう。
生肉であること雑菌発生の可能性もあるので、食すにあたっては自己責任のもと充分ご注意なさってください!
①豚バラブロックの全面にたっぷり塩をすり込む。
②胡椒、ローリエ、ローズマリー、セージ、バジルなどハーブがあれば一緒に添えてクッキングペーパーを巻いて容器に入れてふたをして冷蔵庫で寝かせるだけ。
③水分が出るので、最初は毎日、1週間経ったら様子を見てキッチンペーパーを変える。(手をきれいに洗い除菌するとよい)
※干したり燻製にすれば生ハムだが、わが家はシンプルに冷蔵庫で寝かせるだけ。
※変色し硬くひきしまった3週間くらい熟成したものを薄く切って生で食べ始めるのが好き。写真は1ヶ月経過したもの。カルボナーラやアマトリッチャーナ(トマトのパスタ)に入れて加熱してもおいしい。