旅に出ると連れて帰る石がある。
そのときの心にぴったりあった石。
幼いころから石を拾って帰る子だった。“むやみにそこに生きるものを遠くに持ち帰ってはその子やその子の仲間が泣きます”と母に言われ、部屋を整理するたびに“いつか捨てることになるのならば、その地の仲間に戻しに行く覚悟で救いなさい”と言われたことが心に残っている。だからこそ、イタリアで拾ってくる石には、その自信がある。きっとまた戻ってくるという。
この夏も「旅する土鍋」は、南イタリアはカラブリアに赴いて、おいしい料理を土鍋に入れてもらった。毎朝、自転車にくるくる乗るか、ビーチサンダルをペタペタいわせながら、いつもの海に行く。透き通る青い海と空に浮かびながら、たくさんの空想をした。足もとの砂浜を何時間もながめた。
「濃い青色まで泳ごう」カラブリアの友だちのこのセリフは20数年前から変わらない。
青い海からは、飛び魚が跳ね、遠くで青いイルカが笑う。
青い空からは、地球から離れたら迷宮だよと父が笑う。
拾った石は、本当は誰にも見せたくないのだけれど、カラブリアの家で1週間ほど一緒に過ごしたちいさな女の子に、砂浜で拾ったシーグラスをあげたら、翌々日、彼女は「あなたはわたしの親友」と、砂浜で拾ったもっとすてきなシーグラスをくれた。
帰国後、あるきっかけで、石を大事に扱い尊い作品をつくっている友人に贈ることにした。それはそれは勇気を持って。石というより、陶器のかけらだろう。釉薬がかかったタイルかな、器だったのかな。長い旅をして角がまるくなっている。イオニア海をはさんでカラブリアの対岸のプーリアには陶器の町がある。そこから流れ着いたのかもしれない。
彼女の手から生まれた海をみつめたネコの眼は、海の色をしていた。
毎日青い海の中で泳いだはずのわたしの眼は、それでも深い深い漆黒だった。
Stone Artist Akie :https://www.facebook.com/stoneartist.akie/
Aikie 2525: https://www.instagram.com/akie_2525/
釉薬のムラである斑点を、海のネコのやさしい毛並に。紅い南イタリアの土は、海のネコの体温に。
ありがとうAkieさん。いつかカラブリアの海に還るのかもしれないネコの眼は透き通っていた。
※後日談:この作品はAkieさんの手からカリフォルニアのお客さまに旅立つそうです。南イタリアから東京経由のカリフォルニア。旅する土鍋ならぬ旅するネコ。すばらしい。
INFORMATION
我妻珠美 展-秋を炊く-
2018年 11月16日~11月24日
⇒詳細
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル4F
Ecru+HM(エクリュ+エイチエム)