夏が終わって秋が本番になるころ、毎年、公募展「着想は眠らない」の作品納品で長野県におじゃまします。粗末ではいけませんが「いいものをつくるぞ」と力んだり、相手に期待したり、想い描きすぎたりして、どこかにしがみついたりすると、ふと気づいた時、近視眼的でおもしろみのないものになっていることが往々にあります。この作品を納品するころ、甘酸っぱいほおずきを頬ばるんだ。そんなちいさな思いくらいが、作品を丸く、赤く染めるのでしょう。
今年も、公募展の納品を無事に終え、生産者の名前が記された大粒のほおずきを買うことができました。サラダにしようか、ジャムにしようか、いやそのままパクリが一番だなと思いながら。結局、毎年チョコをコーティングしたエレガンスな鬼灯に仕上げています。
なぜ毎年このチョコをかぶったほおずきをつくるのか。
話はイタリア在住時代に飛びます。秋のセンチメンタルな夕刻、オレンジ色のミラノ街。ちいさなケーキ屋さんのショーウィンドウに並んだその姿に目をうるませたことを思い出すのです。子どものころ舌で鳴らして遊んだほおずきの郷愁感と現地のエスプリが混じり合ったそのお菓子。その名が「アルケケンジのチョコレートがけ」(alchechengi al cioccolato※)と知ってからは、勇敢な男のたち(ちいさな賢者)が歩く姿に見えてきたのですよ。そんな日の、想いを動画に込めて。
※ナス科の野菜にカテゴライズされる「ほおづき」の学名はalkekengi