工房20周年にもかかわらず、春夏と今年は旅とプロジェクトを自粛していましたが、この秋、友人の計らいで「旅する土鍋」のご縁をいただきました。先方の町や宿にご迷惑をかけぬよう安全第一で。プロジェクトは人を集めず、こっそり「下見」という気持ちで。次への「希望の足あと」をつけてこようと思って、焦らず穏やかな気持ちで向かいました。
ご縁をつなげてくださった友人と相談し、浅めの中型「土鍋(3合炊き)と、火にかけられる「ポトル」をカバンに詰めて、丹後半島に舵を切りました。
朝の光のなか家を出ましたが、日没の1時間くらい前にようやく到着。
新幹線で京都に着き、土鍋入りのスーツケースを久しぶりに早足でひっぱり、福知山線「特急はしだて」に乗り換え、これまた小走りに丹後鉄道「丹後の海」に乗り継ぎ、そこから丹後海陸交通ローカルバスにゆられて1時間。わりと空いた、いや貸し切りのような丹後鉄道やバスで、丸一日の移動。
若狭湾にたどり着いたところで、駅前の定食屋さんで大きな焼き魚を二尾とわたしにとっては大盛りごはんを食べたので、遠足のおやつは無用でした。
特筆すべくポイントは、福知山から乗った丹後鉄道「丹後の海」がインダストリアルデザイナー水戸岡鋭治氏デザインであり、驚くほど上質であったこと。ご時世柄、車掌さんに話しかけて良いものか迷いましたが、車内のオブジェについて遠慮ぎみに質問したら、降りるまでずっと説明してくれました。旅人を待ってくれていたのか、拒まれているのかは、マスクの下に半分隠れた笑顔でもわかるものです。この旅の不安が一気に吹き飛びました。
「秋の日は釣瓶おとし」とは、なんて美しく切なくこの時季の日の入りの速さを表現したものだろうと感心します。お世話になる宿 CAFE&BB guri に着いて、土鍋の無事を確認し、コーヒーと手づくりケーキをいただくころは、窓からかろうじてオレンジ色の夕陽が弱くさしこむ時刻でした。
CAFE guriの千明さんの地元の食材を使ったケーキメニュからひとつ選ぶのはむつかしいのですが、柿好きなので「丹後の柿のタルト・タタン」を。guriブレンドは、なんと「ポトル」(コッチョリーノ作)で淹れていただきました。夕陽の残曛(ざんくん)と、CAFEguriの當間千明さんの笑顔は心地よく、こんなに悩ましい時期に、この町に迎えてもらえたことが、胸が熱くなるほどうれしかったのです。
CAFE&BB guri
古民家を改修した一組限定B&B。建築家のご主人が手がけたお部屋のセンスは、良き伊根の古民家を残しつつコンフォータブルな居心地。今回は、ご時世柄、泣く泣く一泊でしたが、檜のバスタブやお布団の心地よさに、長居したくなる宿です。朝食は、カフェメニュ同様、すべてパートナーの千明さんの手づくり。地元の食材を使った皿の数々に歓喜をあげてしまうほど。感染症対策も、充分にお気を使っていただきました。
小さな町だからこそ、現在も生きる漁村だからこそ、一日のはじまりとおわりも都会とは異なります。観光客の時間刻みや、声のトーンで過ごしてはいけません。旅とは「その地の人々の暮らしに耳をすませること」が最大のマナーであると思っています。加えて、大変むつかしい感染症に悩む時代です。地方の活性と、その反面にあるリスク。誰も正解はわからない中で、「考え方について対話すること」で、互いの安心と安全を確認しあい、充分にふるまいやケアに気を配らなければ。
感染症の拡大がおさまらないゆえに、観光地の暮らしが心配ではあるものの、この先は出張や旅を控え、活動範囲をまた自粛しなければならない時がきてしまいました。お取り寄せなどして最大に応援してゆきたいと思っています。感染症がおさまったら、ぜひとも伊根に出向いてみてください。
次回は、地元野菜を盛りつけていただいた土鍋、朝の浜売りなどについて。